損傷部位を修復するMuse細胞

Muse細胞とは

「トカゲのしっぽ切り」と言われるとおり、トカゲはしっぽを無くしてもと修復され、ヒトデも足一本がなくなっても修復されます。

  トカゲやヒトデなどの生物は、カラダ一部が落としてでも、生命を守っています。

 彼らには、修復細胞(Muse細胞)がおおく備わっているからです。人間は、進化と共に減少し、さらに老化によって失われていくため、修復細胞(Muse細胞)の活力は他の動物に比べて減退していると言わざるを得ないのです。


Muase細胞は培養を失敗して発見された

Muse細胞とは、2010年に東北大学の出澤真理教授によって発見、藤吉好則教授が命名した細胞です。

骨髄や皮膚にもともと存在するこの細胞は、「Multilineage-differentiating Stress Enduring Cell(多種系統に分化できる、ストレス耐性のある細胞)」という名前の通り、皮膚や筋肉、肝臓など多様な細胞に分化することができます。

 

 出澤教授は、細胞培養操作を間違えたことで、この細胞を発見したそうです。

 シャーレで培養している細胞に対するタンパク質分解酵素による処理を、通常では数分しか行わないところ、数時間にわたって放置してしまったのです。

 ほとんどの細胞は死に絶えてしまったのですが、ごくわずかに生き残った細胞が、ストレス耐性のあるMuse細胞だったそうです。


iPS細胞の欠点を補う万能細胞

 Muse細胞は、iPS細胞のように外部からの遺伝子導入が必要ないこと、そしてがん化しにくいことから、再生医療への応用が期待されています。また、培養できることで第3の万能細胞として期待されている。

 

 iPS細胞から移植のための細胞を作るには、人為的に細胞の運命を決定しなければならないのですが、そのためにどのような操作をすればいいか、全てが分かっているわけではないのです。

 

 このような問題をクリアするため、iPS細胞とは別の解決策も模索され、その中でMuse(ミューズ)細胞が注目されているのは、体のさまざまな組織の細胞に変化する修復細胞であるからです。

 さらにiPS細胞ほどの分裂能力は持っていないため、がんになることもありません。

 

 


臨床試験が始まりました

 Muse細胞は成人ヒトの皮膚、骨髄などから採取可能で、例えば骨髄液では、3,000個の骨髄単核球細胞のうち1細胞の割合で存在しています。

人間には 数少ない修復細胞(Muse細胞)ですが培養して増やし、損傷した患者に点滴すれば、トカゲのように、損傷した部位が蘇るというのです。

 

 

 Muse細胞の発見から、このMuse細胞を培養して増やし、点滴で静脈に投与することで、脳梗塞、腎不全、肝障害、皮膚損傷などの医療に応用できるのではと、まず動物実験としての脳梗塞動物モデルで素晴らしい成績結果を得られたことから、人間への臨床試験が今年9月から始まっています